TOMYウォッチマン標本箱

TOMYウォッチマン標本箱
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第一章:TOMYウォッチマンとは?

ギャラリー
ウォッチマンディスプレイ(フレンドシップ1982年春号より)

「腕時計、ボタンひとつでおもしろゲーム、ウォッチマン」(トミー販促マニュアルのキャッチフレーズより)
 1981年5月。時は任天堂ゲーム&ウオッチシリーズを頂点とするLSIゲームの人気が高まる中に、腕時計という実用ベースから参戦したのがTOMY社のウォッチマンです。腕時計の特性に最適化された個性的なゲーム内容だけでなく、当時のちびっこ向け電子ゲームグラビアの常連として今なお大きな存在感を残すガジェットです。

腕時計にビデオゲーム機能を搭載した製品は、同時期、時計メーカーなどから発売されていましたが、その多くはゲームが画面の隅で展開し、操作も時計本体横の小さくて固いボタンを使うなど副次的なものでした。対してウォッチマンは、玩具メーカーからのアプローチということから、ゲームを画面全体に配置し、ゴム製の使いやすいボタンを前面に置くなど、ゲームプレイに最適化された仕様に設計されています。前者がゲーム付き腕時計なら、後者は腕時計付きゲーム機とでも言えるでしょう。

一瞬のタイミングと、映画的な展開

ウォッチマンのゲーム操作は、腕にはめながらプレイできるよう、ワンキー仕様となっています(※後期製品には複数キーを使うものもあり)。内容的にはリードミスを誘う一連の流れの中から一瞬の正解をはじきだすタイミングものが主体で、グズグズしていると時間切れでミス…となるなど集中力も求められます。
あまたの電子ゲーム製品の中にあって、ウォッチマンゲームの突出した点は、展開がストーリーをはらんだ映像的な点です。象徴的なものが、シリーズを代表するゴルフでしょう。ショットごとに、自キャラではなくグリーン&ゴールといった背景の方が迫ってくる(または遠ざかってゆく)という立体的な展開は、電子ゲーム全体から見ても革新的なアイデアでした。まして、オブジェクト表示可能数やメモリに制限の多い初期のハードウエアにおいて、木や旗パーツを巧みに組み合わせて9ホール/3210mを表現せしめるこの画面構成は、歴史に刻まれてよい偉業だと言えます。

▲だんだん近づいてくるグリーン。これ以降発売される他社のLCDゴルフも同じ方式をとっており、あからさまに本作の影響下にあることは一目瞭然。

大人向け、子供向け、アーケードゲーム

初年度(’81年)は、腕時計というカテゴリもさることながら、TOMYの脱・玩具路線も背景に、主な販売ターゲットを大人に設定し、アダルト層に人気のスポーツである、ボーリングゴルフの2機種がリリースされました。特にゴルフはプレイ時間も会社への通勤時間に見合うように開発されたそうです。

▲ゲームが時計に…を越えて「ゴルフが時計になった」と自信を叩き付けるコピー。一般紙への出稿というのもそれまでの玩具と一線を敷く。読売新聞1981年広告より。

ゴルフとボーリングの出荷数が各10万台出荷と好評を得たことと、この時期の電子ゲームブームの追い風を受け、2年目からは、小・中学生も対象に、ギャグマンガをゲーム化したようなフィッシング黒ひげ、当時一大ブームを呼んでいたプロレス、実用派のハイターゲットにはバンドやケースに金属を使用したマーシャンウォーなど、縦軸・横軸ともにラインアップを拡充、大衆化を狙いました。
シリーズの先駆けとなったゴルフとボーリングも、材質やデバイス自体を刷新するといった大幅なリニューアルをおこない、部品の統一化とグループでのセールスを狙った方向性が打ち出されました。

▲1982年春のTOMY広報誌・フレンドシップより。ゴルフは昨年に引き続きマスターズにも出場した鈴木規夫プロを、新展開のバラエティー路線には、人気沸騰中だったコメディアン・アゴ&キンゾーを起用。


当時子供だった世代が、雑誌の広告やプレゼントコーナー、少年向けゲーム図鑑のカラーグラビアにて、ウォッチマンシリーズを頻繁に目にするのはこのあたりからでしょう。

晩期となる’82年夏~秋には、知名度の高さを希求するかのように、フリスキートムにインスパイアされたような水道管、パックマンのクローンながらジョイスティックまで搭載してしまったモンスターヒーローというアーケードゲームの人気作を2機種発売します。後者はシリーズ最高傑作でありながらも、版権トラブルでもあったのか商品名と発売時期が二転三転し、ようやく発売される頃には、過剰供給状況にあった国内電子ゲームの大渦に巻き込まれ、宣伝が乏しく知る人ぞ知る一本となってしまいました。

▲小~中学生の学年誌プレゼント企画や電子ゲーム図鑑に頻繁に登場。当時の子供は、このような媒体を通じて、現物を手にしなくても名前と内容とシリーズラインアップを記憶した。

腕時計ゆえのデメリット

ゲーム&腕時計製品としてはバランスの取れたウォッチマンでしたが、10万個単位を売り続けるための商品としてみた場合、腕時計ゆえのハンディ、たとえば…

  • 電池の諸問題(バッテリー容量が心もとない、ケースが小さいことから電池交換が難しい、この時期の問題になった「幼児によるボタン電池の誤飲問題」への対応が難しい)
  • 他人がプレイ画面をのぞきにくいので面白さが伝播しにくい
  • 腕時計ゆえに多種買いしにくい
  • (おそらく)原価が落ちにくい
  • 画面や音が、他のゲーム機に比べて小さい

……等々の弱点がうかびあがりました。玩具業界誌が発表する売り上げ上位を見てもウォッチマンの名が挙がることはほとんどなく、販売数的にはもう一歩だったのかもしれません。
 特に1982年夏~年末商戦は、玩具メーカー各社から70種類以上1のLSIゲームが発売された歴史的乱売期で、他社製品群の混迷の中から一歩抜け出すことが優先される最中、トミーの方針としても、腕時計タイプに固執するつもりはなかったようです。
 ’82年春商戦からは、内容は同じで、画面が大きく電池の持ちの良い、カード型液晶タイプのウォッチマン・デジプロシリーズが併売されるようになり、同年秋をもって腕時計タイプの新機種は打ち止め、以降の展開は低価格のデジプロタイプに引き継がれるようになります。
’83年初夏には、同社ぴゅう太の販促用プレゼント景品として使われていたりもしました。2

▲ウォッチマンデジプロ。カード型LCDゲームの特性を生かした低価格商品。ゲーム内容は腕時計型と同じだが、輸出を意識してか、世界諸国のレーティングに見合うマイルドな表現方法に変更されている。


電子ゲームバブルの崩壊と、1983年夏に登場したファミリーコンピュータの台頭により、各社のLCDゲームの新機種展開もフェードアウト。生産終了後は、90年代中ごろまで、おもちゃ店の店頭在庫をあたためる状況が続きました。

  1. トイジャーナル’82-’83おもちゃ大全集の「エレクトロニクス・TVゲーム・パソコン」項より、’81年発売の機種を除いた数。ここには任天堂や服部時計店などは掲載されておらず、ここからあぶれた既製品もあるので、実際は’82年のこの時期だけで100機種以上が流通していたはず。 ↩︎
  2. トイジャーナル1983年3月号他。TOMYぴゅう太広告より。ぴゅう太購入キャンペーンのB賞で、2本もプレゼントされるらしい。 ↩︎
俗称ウォッチマン・腕時計タイプ
展開時期1981年5月より発売開始。1983年秋で新製品発売は終了。
共同開発・NEC
・Nelsonic(OEM。マーシャンウォーとモンスターヒーローのみ)
担当部門第一事業部 LSIチーム
価格5,980円。マーシャンウォーのみ8,500円。
販売目標・1981年10/29日経産業新聞より
 →当面、国内で年間10万個、来年初めから開始する米国輸出で50万個
・1982年2・20日経産業新聞より
 →’82年8月ころまでに国内、海外市場ともに50万個。計100万個。
販売実績・1981年7月号。※書籍名要確認
→「すでに6万台を出した」TOMY上原常務の談話
・1982年2月日本経済新聞
→ボーリング、ゴルフとも各10万台を突破
カテゴリと種類・スリムボーイタイプ…ボーリングのみ。
・腕時計タイプ…9種類&11タイプ。海外のみ?の別カラーがある模様
・デジプロシリーズ…カードタイプ。
▲TOMYウォッチマンの基本情報

関連コンテンツ

  • ウォッチマンの歴史(近日公開)
  • ウィッチマン原色カタログ(ほぼ完成。近日公開)

第二章:TOMYウォッチマン標本箱とは
~崩壊から始まる新世紀ウォッチマン状況

加水分解でふれることもできない

発売から40有余年。リサイクルショップやネットオークションの普及により、当時は学習雑誌のプレゼントページで想像を膨らませるしかなかったウォッチマンも、比較的容易に入手できる時代になりました。ただ、製造から40年以上を経過した当時のLCDゲームは、偏光板や反射板の顕著な劣化が目立っており、ウォッチマンにいたっては、バンド部分が化学変化で崩壊している状態が、もはや世界的スタンダードなありさまです。
 軟質系素材の化学的劣化は避けようがなく、部品交換以外に打つ手も見つかりません。オリジナル状態を尊重するコレクターなら、生涯、化粧箱の中に安置しておくのをよしとするかもしれませんが、ゲームは遊んでなんぼを下地に持った人間には、それが棺桶のように感じるわけです。
先ごろ「見る専」に我慢ができなくなった私は、朽ちたベルト部分を思い切って切り捨て、本体よりしごきはらって、腕時計の本体のみ小箱に入れ、気軽に手に取り、ゲームや時計を楽しむことを優先しました。

 ボタン電池も、今の時代は100円ショップで安価で大量に手に入りますから、手持ちのウォッチマンすべてにセットし、かけ流し温泉のように稼働しっぱなしもOKです(作業机から、圧電ブザーによる小さな時報が聞こえてくるのは、実にのどかで癒されます)。
世界のオークションサイトを通じて、オルタナ/レアデザインのウォッチマンも手に入れることも可能ならば、同じく海外の腕時計サイトを通して、当時は知りえなかったマーシャンウォーやモンスターヒーローというOEM機の詳細を知ることもできました。

全種類が全動作しているドロップ缶から好きなゲームを選び出す、こういう楽しみ方は、リストバンドと一体型だった’80年代当時には考えられなかったことです。

トミカのようにグループを楽しむ

そしてふらりと立ち寄った無印良品にて、透明性の高い小さなアクリルケースを発見したとき、高い透明性をいかしたウォッチマンのコレクションケースをつくれないか?というアイデアがグワーと沸き立ってきました。ただし、陳列鑑賞するのではなく、先のドロップ缶のように、即遊べるおもちゃ箱のような敷居の低いイメージがおもしろそうだとひらめいたのです。
時計機能を生かして、全機種時報はONにして、BEEPサウンドを日常的に楽しむとか、実用性も追求して、ケースの2段目の底には電池や説明書を収納しようとか、アイデアはどんどんわいてきます。
加えて、私の知識と資料をまるまる詰め込んだマニアックな解説をweb(あなたがいまみているそれ!)に展開しシンクロさせる。などなど。遊べる展示。アクティブなイメージをこめて、名付けてTOMYウォッチマン標本箱!

▲主要9種類テンプレート。今後は単体で楽しめるように構成予定です

TOMYウォッチマン標本箱は、私なりの選択眼でコンピレーションケースをつくり、同じTOMY社のトミカのように、群としてのおもしろさを確認しようというものです。

一方、いくらネットオークションが一般化したとはいえ、ウォッチマン(腕時計タイプ)はトミカほど流通数が潤沢ではなく、現状、落札価格も比較的高くなっています。そのため、おもしろさを”共有”という面を考えると、ハードルが高いのが現状です。
そこで、標本箱の下に敷くインストラクションシートを公開し、これのみ眺めても想像が膨らむようなデザインにもっていく形を今考えています。
切手収集の世界には「ボーストークアルバム」というアルバムがあり、テーマ、概要が書かれた収集用紙だけが用意されているのですが、これが切手本体と同じくらいの魅力があります(ワールドスタンプブック「怪獣の世界」ってご存じ?)。
先に制作した「主要9種類テンプレート」は、処女作ということで、手探りの状態でしたが、今後はこれ単品でも楽しめるような体裁にし公開していこうと思います。

ということで、ウオッチマン標本箱は、40年猶予を経過し、形が変わった今だからこそできる、個人的ウォッチマンの新たな魅力追求プロジェクトなのです。

※標本箱:パイロットページ

以下、標本の実例。引き続き、バリエーションを別ページにて公開していく予定です。
今のところ、1つしかないので、引き続きこのページを利用します。

■ウォッチマン主要9機種(2024年7月制作)

▲上記9種のテンプレート。
今回はあえて各説明を表記せず、製品に注視してもらう体裁にしてみた。
▲82年度TOMY宣材よりコラージュ。ウォッチマンの宣伝素材写真はデザインが大きく異なる試作品を使っているものが多く、宣材から流通版をかき集める方が逆に苦労する。

代表的なウォッチマン9種類のセレクションがこれ。SNSらしく「あ、これ持ってた~」といった共感を集ったり、ウォッチマンの歴史を俯瞰してみる最小公倍数的、もしくは入門者向け。ただし、9個をも置くためケースは大型となり、ウォッチマンらしいミニマムな美しさの追求と行かないところが残念。モンスターヒーローとマーシャンウォーは、ムーブメントが故障していることから互換機を使っています。

▲C&Cのレアカラー・朱


ウォッチマンに関しては私も知らないことが多く、この標本箱の製作中に色々調べたのですが、最初期のボーリングはもうひとまわり大きく、切手でいうところのエラーサイズ。ゴルフはレギュラー系とサイズこそ同じですが、初期はもっと青系のメタリックでした。特筆すべきは化粧箱で、81年組は、旧来のTOMYを踏襲する実にあかぬけないもの。これが82年の新機種発売に入って、新ロゴも含め、すべて統一されるのです。

”関心”するのは色。子供のころ図鑑で見たイメージはもっとカラフルだったのですが、コンプリートした今改めて俯瞰すると、白色ベースか黒色ベースと地味なもの。ケースを格納する樹脂は最初はグレーだったのですが、どちらも沈んでしまうという理由で、白に変更したほどです。
実はごく一部のカタログには、キャット&キャッチのケースが鮮やかな赤色のタイプが掲載されており、実物も存在確認されています。察するに、いわゆるカラーバリエーション展開で、販売数てこ入れのために、若干色違いが作られたようです。あからさまに玩具然とした色彩が、逆にウォッチマンのコンセプトを崩しにかかっています。そういう点からも末期を覚えます。

俯瞰して全史を眺められる分、マニア目線としては、逆にここに収録されていないウォッチマンの方が気になるでしょう。そういうレアばかり集めたセレクションを想像してみるのも面白いですね。

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