TOMYウォッチマン図鑑

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Contents

  1. ウォッチマン直前~スリムボーイシリーズ(1980年)
  2. 腕時計タイプ(1981年~1982年)
    1. レーシング
    2. ボーリング/NEWボーリング
    3. ゴルフ/NEWゴルフ
    4. フィッシング
    5. 黒ひげ
    6. プロレス
    7. キャット&キャッチ
    8. マーシャンウォー
    9. 水道管
    10. モンスターヒーロー
  3. デジプロシリーズ(1982年~1984年頃)
  4. デジプロ以外のウォッチマン(1981年、1982年)


ウォッチマン直前~スリムボーイシリーズ
(1980年)

・1980年4月:任天堂からゲーム&ウオッチシリーズが発売される:価格5,800円
・1980年6月:TOMYからスリムボーイシリーズが発売される:価格:9,980円1

カード型液晶ゲーム機の先駆者として登場し、あっという間に人気を博していった任天堂のゲーム&ウオッチ。他社が1年近く後塵を拝す中、ほぼ同時期に発売されたのがTOMYのスリムボーイシリーズだった。ポケットに入るカードタイプ、ハイターゲットなど、両者のコンセプトは何かと共通する部分が多い。

▲スリムボーイ初期4種。初期の液晶スクリーンだけあって残像が大きい。ボタン数が多いわりに、スタートは方向キーと兼用だったりと洗練されていない。

ただし、息つく暇もないスリリングなゲーム&ウオッチに対して、展開が怠慢なスリムボーイという構図。基本2ボタン操作の前者に対して、基本5ボタンの後者。軽い前者、ズシリと重い後者。激しい残像、価格は倍近くあった。海外ではSLIMLINEの名でレーシング5が発売されたようだが、ebayを見る限り現在も回転寿司のバッテラ状態である。
 そんなシリーズに「不器用なスリムボーイは、遊びに不器用な昭和の大人の香りがしたもんだよ」とエールを送ったのは寺町電人のレビューである。

腕時計タイプ
(1981年~1982年)

これといったコンンセプトが見えないローンチ

当初はボーリングとレーシング、腕時計とキーチェーン版の計2種類4製品で発売される予定だったウォッチマンは、突然レーシングが消滅し、ボーリングの単独発売となった。そのためなのか、最初期の広告は「腕時計型ゲーム」「スタイリッシュ」といった外側ばかりがクローズアップされ、肝心のゲーム内容(ボーリング)についてのアピールが見えてこない。

watchman list watch

■レーシング(未発売)

  • 種類:カーレース
  • 予価:(両)5,980円
  • 発売予定年月:1981年春(推定)
  • 腕時計タイプとカード型(キーチェーン)タイプの2種類
  • 電池:LR-44×2個

画面(スリムボーイタイプ)

未発売に終わった最初期のウォッチマン。カタログ写真を見る限りでは、スリムボーイ「レーシング5」の縮小版であることは疑いない。だとすれば、内容はドットのないヘッドオンだ。


本製は大阪、東京などで行われた’81春の玩具展示会(2月12日に初日、以下全国で開催)の若い日のみの出展だったようだ。
レーシングについての情報は極めて少なく、ここでのソースはウォッチマンを記事にした日経産業新聞と、写真を引用した「’81 TOMY Fashionable Goods Catalogue」の2つである。TOMY公式の情報誌「フレンドシップ」にさえ情報は掲載されていない。
生産中止になった理由は不明。生産上のトラブルかもしれないが、極初期に早々とリリース中止になったため、当初から単なる参考出品だった可能性もある。そもそも、レーシング5が期待ほど売れなかったはずなのに、同じ複雑な操作を小さな腕時計サイズの3ボタンで行うのは、最初から無謀だった気がするのだ。

▲スリムボーイとウォッチマンが併設されたディスプレイで、おそらく’81春の玩具展示会の展示写真。右端の完成度が低いのは、急遽レーシングをカットしたためか?

watchman list watch

■ボーリング/NEWボーリング(ボーリングII)

  • 1981年5月
  • 5,980円
  • アラーム機能付き
  • 電池:
    ・LR-44×2個(初代)
    ・CR 2032×1個(NEW)

1キーで遊ぶボーリングゲーム。ボウラーが上から下へ4段階に自動的に繰り返し移動するので、タイミングがよいところで投球ボタンを押す。ピン中央に降りた瞬間に投球ボタンを押せばストライクがとれる確率が高い。
得点方法は本物のボーリングに準じており、ストライクやスペアを重ねるごとにスコアがぐんぐんあがっていく。この計算を自動的にしてくれるのも隠れたミソ。
1ゲームだけプレイできる一発勝負モードもある。

全灯時の画面
取れそうで取れないストライクに夢中!
▲キーチェーンタイプ。腕時計と同一の液晶デバイスを使用

ウォッチマン第一号。発売中止となった複雑なレーシングと対照的に「誰でもルールを知っているスポーツであるから、店頭での説明も不要」という点も、玩具店に対するセールスポイントのひとつだった。

スポーツゲームの肝は、絵にかいたような必勝法がないことだろう。初期液晶ゲームの少ないアニメのコマ数で、しかし常時パーフェクトがとれるようなタイミングがあってはゲームとしては失敗。実際のように絶妙な匙加減があってこその高得点の獲得なのだが、同じタイミングで投げているようでストライクがとれない/とれるという判定を導入し、それがランダムなのかコンマ判定なのかは知らないが、結果としてうまくビデオゲームに落とし込まれている。
この「一瞬のタイミング命」デザインは「水道管」を除くすべてのウォッチマンシリーズのゲームの肝となった。逆に、一撃必殺も逆転劇もない水道管は、爽快感がなくダラダラとした展開が続く。

▲初代(1981年版)。横幅も厚みもある
大きく異なる初代と二代目

マニアならご存じの通り、ボーリングには初代と「NEW」の2種類があり、初代ボーリングは、腕時計というには不自然なほど横幅が広く、厚く、まるで試作品というか、映像作品でいうところのパイロットフィルムのようだ。バッテリーも薄型のCR-20232ではなく、ゲーム&ウオッチ(ワイドスクリーン以降)やスリムボーイと同じLR-44を2個必要とした。

レーシングとボーリングといった超初期ウォッチマンのゲーム内容に、確固たるコンセプトらしきものが見えないのは、ひょっとして「今度超小型デバイスを開発しました。腕時計型でもできますし、例えばこんなゲームができます」といった(ハードウエアを設計した)NECのサンプルソフトをそのまま製品化したからではないだろうか? 実際、この横長スクリーンの採用は、本機のみにとどまっている。

■ゴルフ/NEWゴルフ(ゴルフII)

  • 種類:スポーツ
  • 価格:5,980円
  • 発売年月:1981年10月頃
  • 腕時計版は初期版とNEW版の2種類。デジプロシリーズ等多数バリエーションあり
  • 電池:CR 2032×1個
    ゲームプレイ音ON/OFF機能つき

9ホールを回る一人専用ゴルフ。ホールに立つと、自動的にクラブが振りかざされるので、妥当なところでボタンを押し球をショットする。グリーン上ではパターを的確に。できるだけ少ない打数でホールを回ろう。

▲ゴルファーではなくグリーンの方から迫ってくる、当時としては斬新すぎるシステム
本当のスタート
▲メタルカラーver。各種宣材に掲載されたが発売されたか?は不明。素材はプラっぽい。
▲1981年版。パッケージがいかにも旧TOMYといったあかぬけないもの

「ゴルフ世代のためのゲーム機」~前作までは曖昧だったコンセプトが、本作で明確となった。大人をメインターゲットにしたこと、しかも実在のスポーツで、説得力のある内容でないと子供だましだと一笑に付されたはずだが、そこは、大人のプレイにも耐えられる内容をリリースした企画力にまずは拍手をおくりたい。
マイキャラからではなく、背景の方からせまってくるという画期的な画面構成のアイデアは、これ以降の液晶ゴルフゲームが、のきなみその影響下にあることを歴史が証明している(それ以前の小型ゲーム製品では。プレイヤーの方がホールマップ上を移動していた)。
大衆紙「オール読物」(1982年4月号)には「駅のホームで傘を(クラブにみたてて)振り回しているよりよっぽど練習になる」と、好感度の高いレビューがなされていた。

マスターズに出場した鈴木規夫プロを起用

翌年ウォッチマンがシリーズ化した際、イメージキャラクターにアゴ&キンゾーが採用されても、本機だけは別枠でプロゴルファーの鈴木プロを起用し、大衆誌やヤング向け情報誌を主体とする特別な広告展開が続けられた。1機種だけにこの特別扱いはTOMYのゴルフに対する期待と真剣さの表れである。
ただし、時計店やゴルフ向けコンペ商品にまで販路を広げたとはいえ、TOMYの基本販路はおもちゃ店だったので、実際どれほど拡販に貢献できたかであろうか。むしろ、アダルト層にも満足できるゲーム内容の充実度が、”おさがり”の体で小学生たちに与えられ、年少者らがプレイしたことによって、任天堂のゲーム&ウオッチ同様、そのおもしろさが広がり、TOMY製品への信頼度や他の製品への期待を後押しした面が大きいのではないだろうか。

▲青年誌を中心に広告展開。「これなら青木プロに勝てる」のキャッチコピーが秀逸。
TOMYフレッドシップ第10号背表紙より

以後もデジプロ3000など再製品化が続き、シリーズ随一のロングセラーとなる。

■フィッシング

  • 種類:タイミングアクション
  • 価格:5,980円
  • 発売年月:1982年4月頃
  • アラーム機能、ストップウォッチ機能付き
  • 電池:CR 2032×1個

ゲームをスタートさせると、釣り少年が海に竿を投げ、浮きがふわふわとランダムに動く。浮きが一番深くに落ちた段階でアクションボタンを押すと、見事魚が吊り上がって5点獲得。それ以外の段階でアクションボタンを押すと、後ろで見物している女の子のスカートに糸がひっかかってしまい、怒った女の子に海に蹴り落されてしまう。制限時間にアクションを押さなくても同様。3回ミスするとゲーム終了となる。

▲フィッシングのミスシーン。スカートめくりで叱られるシチュエーション。「H」という日本ならではのスラング。日本文化からしか生まれない演出。濡れた帽子がミス回数とは芸も細かい。
日本でしか生まれえない4コマ漫画ゲーム

シンプルなレベルデザインでも、演出しだいでここまで豊かになる好例。フィッシングのミス展開は、起承転結のついた、まるで教科書のような4コマギャグマンガだ、つまり、日本文化でしか生まれなかったゲームといえる。

公式パンフのカットより。この方向性ではセールスしにくい
アゴキン版は1コマ漫画。完成度高し。

TOMY宣材の一部では成人女性とおぼしきカットが描かれているものもあるが、それでは露骨だし、こうなるシチュエーションもわからない。こどものデフォルメキャラ二人を置くことで、日常の風景におさまったし、笑いになったし、腕時計の小さなスクリーンに全身アニメーションを展開することもできた。
ほのぼの日本の源流をかもしつつ、もっとも、現在では、コンプライアンスの関係でこの演出はNGであろう。当時としても、ほぼ同時発売されたデジプロ版では、女の子がクマに置き換えられており、女性プレイヤーへの意識や、海外輸出の際の配慮がなされている。これもまた売り上げに対する「欲望の系譜」だ。

■黒ひげ

  • 種類:タイミングアクション
  • 価格:5,980円
  • 発売年月:1982年春頃
  • アラーム機能、ストップウォッチ機能付き
  • 電池:CR 2032×1個

海賊船にぶら下がっている黒ひげをワンキーボタンで操作し、右側の島でちらちら姿が見える美女をかっさらうというもの。規定(一か所だけ)以外の場面でボタンを押すとミスとなり、黒ひげは海に落ちてサメの餌食に。3度ミスをするとゲームーオーバー

フィッシングのキャラ替え

実はフィッシングのキャラだけを替えた製品。仕様が全く同じのため、ミスした時も、特にスケベなことをしたわけでもないのに「HHH」が表示される。キャラが小さい上に、視線も上下左右あちこちと飛ばされるので、何が成功で失敗なのかわかりづらい。


輩(やから)が女の子をかっさらって、ミスすればドボンというのは、フィッシング同様の男性向きヤンチャ路線である。これもデジプロ版では、女性を島から救出する正義の味方路線に変更された。フィッシング同様のレーティング低下措置であるが、そもそもがわかりにくいゲームなので効果的でもない。

■プロレス

  • 種類:タイミングアクション
  • 価格:5,980円
  • 発売年月:1982年春頃
  • アラーム機能、ストップウォッチ機能付き
  • 電池:CR 2032×1個

黒人レスラーにドロップキックを決めろ! ロープ前なら顔面狙い、コーナー上段では逆ミサイルキックが炸裂する。しかし、既定の場所以外でボタンを押してしまうとキック失敗で落下、トップロープから黒人レスラーの毒針エルボーが降ってくる。3度ミスをするとゲームーオーバー。

1局面につき15点からカウントダウンされ、早い段階でキックを決めると高得点。0になるとミスとなる。ミスをしないでゲームを続けていると、スコア表示が点滅し、上段は200点、下段は150点というケタ違いのフィーバー状態に入るので、ノーミスプレイを心がけよう。

▲レスラーが矢印の場所にいる時にのみ、キックがヒットする
フィーバーシステムはもろ刃の剣

1981年春。猪木VSブッチャーという金曜夜8時を切り取った意匠。無論、説明書のどこにも(c)マークはないが、幸いにも、ウォッチマンの宣伝タレントもアゴの長さを売りにするアゴ勇であった。

猪木ではなくアゴちゃん。ブッチャーではなくキンゾー。

ゲームの要はなんといってもノーミスを続けると突入する高得点モード。桁違いの得点が加算されていく様は実に爽快で、ゆえに序盤の単調な展開も我慢してプレイし続けるわけなのだが、ミスをして通常モードに戻ってしまった瞬間、やる気が出なくなる。任天堂ゲーム&ウオッチにもノーミスフィーチャーはあるが、そちらはミスしても立て直そうという気が起こる内容だけに、インフレ仕様がすぎたかもしれないし、前半の単調すぎる展開にもう一工夫あってもよかった。

■キャット&キャッチ

  • 種類:タイミングアクション
  • 価格:5,980円
  • 発売年月:1982年春頃
  • アラーム機能、ストップウォッチ機能付き
  • 電池:CR 2032×1個

プロレスのキャラ変え製品。舞台はどこかの惑星、キャット博士を操作して、惑星上をふらふら飛ぶ顔つきUFOを、殺虫剤やはえ叩きで退治せよ。ミスするたびに「ば」「か」「ね」の文字が揃い、3度ミスをするとゲームーオーバー。こちらも、ノー、イスプレイを続けていると、スコア表示が点滅し、ケタ違いの得点が入るフィーバーモードに突入する。

▲UFOが矢印の場所にいる時にのみはえ叩きがヒットする
▲左2つが成功の流れ。右端が失敗画面(デジプロ版の説明書より)。
ファッショナブルはウォッチマンのもうひとつの方向性
▲レッド版

プロレスが男性向けなら、こちらはユニセックス対象で、「バ・カ・ネ」という字余り間残る日本語、ネコがUFOを殺虫剤で駆除する世界観(一世を風靡したキンチョールのCMがベースにあるかもしれない)。UFOから割れ出し「ブーン」と飛び出す虫など、かわいい系のナンセンスコメディ路線。

同時発売されたデジプロ版の透き通る本体デザイン、またはファンシーグッズのようなド派手なレッド版(オルタナカラー)を見ると、ゲーム内容よりデザインや雰囲気で売ろうという製品であることが見える。
遊戯道をまい進するよりも、ノリや雰囲気、ライト感覚の購買層を意識した意匠は、供給過多なLSIゲーム時代に売り上げを伸ばすための定石だったのであろう。「内容より雰囲気」と言えるが、それもまた腕時計の一面といえよう。

当時のTOMYのLSIゲームは、海外圏でのセールス/輸出も前提にされていたが、2ウォッチマンに関していえば本格的な展開はなかったようで、製品自体は同一だが、化粧箱は英語。説明書は(日本版そのものが)片面が日本語、片面が英語で印刷されている程度の改変である。
そのため「バカネ」の表示は日本語そのまま、一応英文の説明がなされているが、意味は書かれていないなどなげやりだ。

■マーシャンウォー(MARTIAN WAR)

  • 種類:シューティング
  • 価格:8,480円(メタルタイプ)/プラスチックタイプ(7,980円)
  • 発売年月:1982年春頃
  • アラーム機能、ライト機能付き/説明書未掲載の謎のBEEP音スイッチ付き(MUSICモードが去勢されたもの)
  • 電池:LR-1120×2個
    OEM先:Nelsonic(香港)

大空を孤を描いて飛び去るUFOを高射砲で撃破せよ。UFOのコースは上中下の3コースがある。UFOはたまに爆弾を投下してくるので、撃ち落さないとミス。砲台はワンキー操作で、右回転しかしないため、敵の大変難しい。3ミスでゲームオーバー。

まさに鬼っ子

裏の主役といっていいだろう。「マーシャンウォー」なるネーミングからして日本人になじみのない呼称だし、一目して素朴で隙間の目立つゲーム画面は、この時期の日本のニーズとかけはなれている。助っ人外国人選手の正体は、当時ゲーム機能付き腕時計を世界中にOEM販売していた香港のNelconics社からの製品。


電池交換は精密ドライバーが必須で、交換後に微細配線を金属ドライバー等でショートさせる必要があるなど、STマークをとっているのかも怪しく、そんなややこしい製品を、TOMYが一体なぜ本品を取り扱ったかには大いに興味をそそられる点である。単純に、ハイターゲット向けの金属製ウォッチマンをラインアップに加えようとしたのか、しかし、Nelsonicからは、TOMYパックマンの迷路レイアウトとキャラをそのまま流用したような腕時計ゲーム機が発売されているなど、表層的なものではないのかもしれない。

「液晶を2枚使っているってことだよね?!」
▲時計モードの画面。1枚のスクリーンではゲーム画面とこの画面は両立しない

当時の子供たちは、電子ゲーム図鑑などで画面だけはさんざん見てきたわけだが、ひとつわからないことがあって、それがUFOが左上に浮かんでいる時計モードの画面である。
電子ゲームのスクリーンは、液晶/蛍光管問わず、キャラクターを重ね置くことはできない。いびつな組み合わせを、壁だ弾だモンスターだと、仕様として納得されてきたわけだ(マルチカラーレーザーMr.Do!などがよい例)。
しかるに、このマーシャンウォーは、時計にゲームに、全く関連性のない2種類の画面が紹介されているのであった。子供の頭でも、これは液晶画面を2枚重ね合わせているとしか考えられなかった。その仕様に素直に憧れると同時に、贅沢に2枚画面を持ちながら製品はこれか…、という二律背反の闇や深さを感じたものだ。このエクスキューズは、同じくNelsonic社製の後発製品モンスターヒーローで回収される。

本家はスタートレックの音楽が鳴る
▲プラスチック版。一部のカタログのみに掲載されている。

マーシャンウォーは世界中に同種異名の製品が流通しており、TOMYウォッチマン版もそのひとつでしかない。
ただし、本家が発売したNelsonic Space Attackだけは、左下のボタンの説明にMUSICと書かれており(他機種は「L/R」と謎の表記)、押すと、トワイライトゾーンやスタートレックに似た音楽がメドレーで流れるという特別仕様になっている。TOMY版含め他のブランド版では、無機質なアラームが鳴るだけであり、普通、このようなコレクションは、TOMY版だとかを収取したいと思うが、マーシャンウォーに限っては、Nelsonicブランド版のスペースアタックが羨望のまなざしをそそがれている。3

未発売?のプラスチック版

金属タイプの別バージョンとして、値段が安いプラスチックタイプの存在が一部のメディアに紹介されているが、マーシャンウォー自体がいち早くカタログから退場したことから、実際に(日本で)発売されたかは不明。ただし、こちらもクローン版ではふつうに流通している。

■水道管

  • 種類:ディフエンスシングアクション
  • 価格:5,980円
  • 発売年月:1982年夏頃
  • アラーム機能、ストップウォッチ機能付き
  • 電池:CR-2332×1個

舞台は地下下水道の中。ネズミが水道管のパイプを次々と外すので、パイプマン(修理人)を移動させて修理する(その位置に移動すると自動的にリペアされる)。ネズミのおしっこにふれると2秒間うごけなくなる。そうこうするちに、下水道内の水位は上がってゆき、一定を越えるとおぼれてミス。3度ミスをするとゲームーオーバー。

▲水漏れの個所でじっとしていると自動的に修理される。
フリスキートムの雰囲気を楽しむしか

どこにも書かれてはいないが、あきらかに当時ゲームセンターでヒットしていたフリスキートム(日本物産)の影響下にある内容と出演者。フリスキートムはバンダイが液晶と蛍光表示管の2機種でLSIゲーム化しており、エポック社もオイルギャングという似たLCDゲームを発売するほどの人気があった。

プロレスのようなノーミスボーナスがあるわけでもなく、水位が下がるフィーチャーもなく、ネズミへの逆襲要素も一切ないなど、ゲームとしてまるで盛り上がらないまま終了する。ウォッチマンの優れた特徴であった、ワンキー操作とスリリングなタイミング合わせもなくなり、いわば、フリスキートムの雰囲気を楽しむだけのようなゲームだ。
最大のアドバンスは、白ベースに赤青カラーのスタイリッシュなデザインかもしれない。シリーズに末期症状を覚える製品である。

■モンスターヒーロー

  • 種類:ドットイートアクション
  • 価格:5,980円(当初発表時は6,980円)
  • 発売年月:1982年秋頃
  • マイクロジョイスティック搭載。アラーム機能、ライト機能、消音、曜日表示
  • 電池:SR-1130W×1、またはUC-389×1
    OEM先:Nelsonic(香港)

2匹のモンスターを避けながら、画面上を覆いつくすドットを食べつくそう。パワーフルーツを食べると、逆にモンスターにかぶりつくことができる。3度ミスをするか、1999点でパーフェクト達成するとゲームーオーバー。ゲームタイプはワープトンネルの扉が空いたままのAと、開閉するBが選べる。

▲右下のコントロールレバーに驚愕。操作性もよく、基本ゲーム内容の完成度も高い
80年代の腕時計型ゲーム機が到達した頂点

ソフトにハードに完成度が高く、かつスタイリッシュ。おそらくウォッチマン人気投票をすれば本作がトップであろう。惜しむらくは、本作はTOMYオリジナル製品ではなく、マーションウォーに続いて、Nelsonic社からのOEMであった4
マーシャンウォーで採用したデュアルスクリーンを搭載し、時計モードでも一般デジタルウォッチとそん色ない時計&カレンダー表示を実現。ソフト的なトランスフォーマー機構とでも呼べばいいのか、おもちゃ時計を付けていると馬鹿にされないかと心配な諸兄に、この仕様は待ちに待っていたものだった。
暗闇でも見えるライト点灯機能や、正面右下にはなんとマイクロジョイスティックが搭載されており5、4方向ゲームレバー以外にも、メニューセレクトにも対応しているなど、数万円の腕時計ですら及ばないパフォーマンスと遊び心を搭載している。
2種類のドットイートゲームは、カウンターストップがあって達成感もあり、なにより親指で操作する4方向ジョイスティック(もちろん金属製)は、ファミコンの十字ボタンに先駆ける正確な入力デバイスであった。
筆者はLSIブームの過ぎた80年代末期に、近所のおもちゃ屋でデッドストックを入手し(見つけたときは、あ、ゲーム図鑑のあれだ!!と狂喜した)、塾にクラブ活動のおともにと十二分に活用した。あまりにも見せびらかしたものだから、最後はロッカーから盗まれてしまったのだが、盗まれるほど魅力的なガジェットであったと言えるわけである。個人的に大変思い出深い。

発売延期を重ねてしまう
▲説明書より。パックマンのインストそのもの

最初期はずばり「パックマン」(仮)の名称で発表。やがて「モンスター」という名称で各種メディア告知され、水道管との同時発売予定だったが、最終的には「モンスターヒーロー」という名前で、水道菅より遅れて発売された。
理由はいくつか考えられて、TOMYの同時期のカード型LCDゲームに「プログラミング パワーマン」があるが、これも最初期は「プログラミング パックマン」であったことから、LSIパックマン(’81年)後は、ナムコの許諾が下りなかった可能性がある6
製造元であるNelsonic社の製品も、モンスターヒーローと同一のものだがフィルムに着色されたもの、ずばりナムコのパックマンそのもの、一部海外で採用されたパックマンの絵柄を採用したものなどなど多数のバリエーションの存在が確認されており、各国各地域にあわせたライセンス展開がなされたようだ。
発売時期が遅れたことは、パックマンゲーム自体がトレンドから外れつつあった時期にマイナス要素を重ねる結果になった。ダブルスクリーンでありながら、当初発表時の6,980円から、5,980円に下げざるを得ない時期にかぶってしまった。

1983年以降~玩具店の店頭在庫を温める日々

LCDゲーム製品自体が飽和を迎えたこと、夏以降のファミコンの台頭新製品の開発は終了。
デジプロ版ゴルフのみセルフリプロダクツ。
ぴゅう太の販促品に使われたこともあった。


電子ゲームが東京おもちゃショーを覆いつくした1982年は終わりの始まり。腕時計製品ゆえの弱点もあり、供給過多のウォッチマンシリーズは、デジプロへ移行し、腕時計タイプは傑作を放ちつつ終売に向かう。

デジプロシリーズ

1982年春商戦より登場。腕時計タイプのさまざまな弱点(TOMYウォッチマン標本箱に詳しい)を克服したカードタイプゲーム機。腕時計タイプの分身のようなもので、時計機能(アラーム等)やゲーム内容は全く同じ。ただし、フィッシングや黒ひげにあった(言ってみれば)男性向きの演出/グラフィックがユニセックス向けor全年齢向けといった仕様にあらためられている。

▲ラインアップは1.ゴルフ、2.フィッシング、3.黒ひげ、4.プロレス、5.キャット&キャッチ、6,水道管で、このうち2と3、4と5が同内容。またロングセラーである1は継続しつつも、同期のボーリングは発売されず。
水増し感が出てしまったワイドスクリーン

1981年頭の相場のお話。当時NECがウォッチマンの主要デバイス(LSIそのものだけかもしれないし、もしくはスクリーンを含めた一式、プログラムだけは別扱いなどといったものかもしれない)を受注生産する場合、最低ロットは10万台だったと言われる。7 デジプロシリーズ、そしてフィッシングやプロレスにキャラ替え製品やといった派生商品があるのは、なんだかんだ言って、この注文数を消化する事情のためだ。
とはいえ、もともとウォッチマンは「小さな画面を片手で遊ぶワンキーゲーム」を前提に設計されているため、画面を拡大したり両手でしっかり操作する仕様にすると逆に水増し感が出てくる。そのためのサービス価格(3,970円)8なのかもしれないが、おもしろくないゲームはタダでもやらないとはよくいったもので、デジプロの多くは’90年代のおもちゃ屋のデッドストックで必ず顔を見たし、現代でもオークションの回転ずしの常連である。
このようなデバイスの使いまわしは、表層のフィルムだけを変更すれば安易に実現できる液晶ゲームの特徴の一つで、TOMYに限らず、バンダイやエポック社、タカラ、米沢玩具、増田屋コーポレーションなど、当時ほとんどの玩具メーカーが行った手だった。
当時の子どもは、キャラ替え同一品を見抜くことが一種のクイズのようなもので、ゲーム図鑑類をのぞく楽しみのひとつでもあったが、末端の玩具店にとっては積み在庫の要因であり、返品不可の商習慣を苦々しく思ったであろう。

▲トイズマガジン1982年8月号背表紙より

キャラ替え製品路線は、ゲームの内容こそを商材とする任天堂だけはやらなかった。←と思ったが、再販マンホールや、カラースクリーン←→パノラマスクリーンといった、キャラ替えではないリプロダクツ、併売はあったね、。

デジプロ以外のウォッチマン

大半のウォッチマンでは、デジプロ版が存在するが、何らかの理由でその体裁に収まらなかった機種については、番外的なフォーマットとパッケージを用いて製品化された。
LSIゲーム図鑑や雑誌のゲーム特集等マスコミ媒体では、製品パッケージ(外箱)は基本的に紹介されないため、店頭で実物を見て、その意外なサイズや、腕時計版からの変容ぶりに驚かされたものである。

・スリムボーイ・ボーリング
・ウォッチマンモンスターヒーロースタンドタイプ

脚注:

  1. 液晶スクリーンコントロール機能と時計機能を持った4ビットマイコン。1980年当時、これで製品が作れたのは国内ではシャープ&任天堂、NEC&TOMY、NECからデバイスを供給されていたカシオなど限られていた。カシオのゲーム電卓MG-880も1980年夏と早い。 ↩︎
  2. 1982年頃、TOMYは海外法人を閉鎖しており、この時期のLSIゲーム輸出展開は混乱している。例えば同時期のLSIスクランブルはOEMの形で、各国の玩具会社からさまざまが名称、デザインで流通していた。一方、初期から輸出を宣言していたウォッチマンは海外ではほとんど見られない。 ↩︎
  3. しかも、クローンの中には映画STAR TREKIIからの正式許諾製品もあるのに、音楽がならない(BEEP音だけ)のである。 ↩︎
  4. Nelsonic社は2種類のパックマンウオッチを出しており、もう一方はゲーム構成がTOMYのLSIパックマンと同じものだった ↩︎
  5. 一部の海外版では破損防止にスティックだけ取り外し可能な別パーツ扱いになっているものもある ↩︎
  6. この他にも、1982年発売のぴゅう太の最初期ラインアップには、ディグダグの名前があった。 ↩︎
  7. 月刊「財界」1981年号(号数確認中)より。ちなみに同時期、カシオのデジタルウォッチは、毎月の生産予定数が10万台だった。 ↩︎
  8. 寸前のTOMYフレンドシップでの発表価格は4,980円だったので、急遽(1,010円も)値下げされた模様である。また、翌年の新機種デジプロ3000シリーズは2,970円と、LCDゲーム機の商品価値は急激に下がった。 ↩︎

関連コンテンツ

TOMYウォッチマン標本箱
→ウォッチマンの歴史(只今製作中)

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